未破裂脳動脈瘤
(みはれつ脳動脈瘤)
未破裂脳動脈瘤とは
脳の血管の一部が袋状にふくらんだ状態を脳動脈瘤といいます。
そのうち、まだ破裂していないものを未破裂脳動脈瘤と呼びます。
多くの場合、自覚症状はなく、脳ドックやMRI・CT検査で偶然発見されます。
しかし、ひとたび破裂するとくも膜下出血を引き起こし、命に関わる、あるいは重い後遺症を残す可能性があるため、適切な評価と管理が重要です。
破裂リスクと治療を考える視点
未破裂脳動脈瘤の破裂リスクは一律ではなく、以下の因子を総合的に評価します。
- 動脈瘤の大きさ・形状
- 部位
- 年齢、高血圧、喫煙歴、家族歴
- 画像上の変化(増大や形の変化)
日本の脳卒中治療ガイドラインでは、
**一定以上の大きさ(おおむね5〜7mm以上)**や、形・部位に高リスク因子を有する場合には、破裂予防の治療を検討することが推奨されています。
一方で、破裂リスクが低いと判断される場合には、定期的な画像検査による経過観察が選択されることもあります。
治療法の選択について
未破裂脳動脈瘤の治療には、大きく分けて
開頭脳動脈瘤クリッピング術 と 血管内治療(コイリングなど) があります。
どちらが優れている、という単純な話ではなく、
患者さんの年齢、動脈瘤の部位・形状、将来の生活を含めて判断することが重要です。
クリッピングとコイリングの考え方
個人的な考えとしては、
- 若年で、一度の治療で根治が期待できる症例では
→ 開頭によるクリッピング術 - 後頭蓋窩(脳の深部)に位置する動脈瘤など、
開頭手術の侵襲が大きくなりやすい症例では
→ 血管内治療(コイリングやフローダイバーター)
が望ましい場合が多いと考えています。
これは、
「一時的な身体への負担」だけでなく、
将来にわたって再治療の必要が少ないこと(根治性)、合併症を最小限に抑えること
を重視しているためです。
低侵襲手術(鍵穴手術やカテーテル治療)に対する考え方
身体への負担が少ない治療、いわゆる低侵襲手術は、大きな利点があります。
皮膚切開が小さく、回復が早く、社会復帰が早いという点は、多くの患者さんにとって魅力的です。
私自身、鍵穴手術を含め、低侵襲手術にも長く取り組んできました。
しかし、「低侵襲であること」そのものを最優先にはしていません。
大切なのは、
その治療法が、患者さんの長い人生にとって本当に最善かどうかです。
動脈瘤治療においても、
- 開頭クリッピング
- カテーテルによるコイリング
それぞれに利点・欠点、そして限界があります。
誤解されがちですが、
低侵襲手術=合併症が少ない とは限りません。
傷が小さくても、後遺症を残してしまっては意味がありません。
一方で、しっかり開頭することで根治率が高まり、結果的に合併症のリスクが低くなるケースもあります。
私が重視しているのは、次の3点のバランスです。
- 合併症をできるだけ起こさないこと(後遺症を残さない)
- 病気をしっかり治すこと(高い根治性)
- 可能な範囲で身体への負担を抑えること
低侵襲手術を希望される患者さんに対しても、
病変の状態、年齢、全身状態、将来の生活までを含めて総合的に判断し、「こちらの治療の方が安全です」とご説明することがあります。
診察では、それぞれの治療法のメリット・デメリットを丁寧にお伝えし、患者さんご自身が納得して選択できることを何より大切にしています。
最後に
未破裂脳動脈瘤は、「治療が望ましい場合」と「慎重に経過をみるべき場合」があります。
一人ひとり状況が異なるため、正解は一つではありません。 専門的な評価をもとに、患者さんと十分に話し合いながら、最適な治療方針を一緒に考えていくことが重要だと考えています。不安や疑問がある場合は、どうぞご相談ください。
「高齢だから危険??」
脳動脈瘤治療で本当に大切なこととは?

未破裂脳動脈瘤が見つかったとき、多くの方が
「年齢的に手術は危険でしょうか?」
と心配されます。
実際に外来でも、
「もう高齢だから治療は難しいですか?」
という質問をよく受けます。
そこで私たちは、日本全国20施設が参加する多施設共同研究を行い、60歳以上の未破裂脳動脈瘤患者397名を対象に、治療後の経過を詳しく調べました。
年齢そのものは大きな問題ではなかった
研究の結果、意外なことが分かりました。術後の回復に影響していたのは、実際の年齢ではありませんでした。70歳で元気な方もいれば、60歳でも身体の予備力が低下している方もいます。大切なのは「何歳か」ではなく、「どれくらい元気に生活できているか」だったのです。
重要だったのは「フレイル」
フレイルとは、
- 歩く速度が遅くなった
- 疲れやすくなった
- 運動量が減った
- 筋力が低下した
といった、身体の予備力が低下した状態を指します。
今回の研究では、フレイルの程度が高い患者さんほど、治療後に機能低下を生じやすいことが分かりました。
MRIでわかる「脳の年齢」
さらに重要だったのが、MRIで見られる「白質病変」です。
白質病変は加齢や高血圧などによって脳の細い血管が傷み、MRIで白く見える変化です。
研究では、この白質病変が強い患者さんほど、
- 術後脳梗塞
- 術後脳出血
が起こりやすく、治療後の回復にも影響することが明らかになりました。
つまり、戸籍上の年齢よりも、「脳そのものの健康状態」の方が重要だったのです。
患者さん一人ひとりに合わせた治療へ
未破裂脳動脈瘤の治療は、
「○歳だから治療する」
「○歳だから治療しない」
という単純なものではありません。
私たちは、
- 動脈瘤の大きさや形
- 全身状態
- 日常生活の活動性
- フレイルの有無
- MRIでの白質病変
などを総合的に評価し、その方にとって最適な治療法を提案しています。
高齢であることだけを理由に治療を諦める必要はありません。
一方で、より安全な治療を行うためには、患者さんごとのリスクを正確に評価することが重要です。
【研究論文】
- Matano F, Murai Y, Morita A, et al.
- Frailty and Severe White Matter Lesions Are Risk Factors for Surgical Treatment for Unruptured Cerebral Aneurysm in Older Adults. Neurologia Medico-Chirurgica, 2026.
頸動脈狭窄症
頸動脈内膜剥離術(CEA:Carotid Endarterectomy)
頸動脈狭窄症とは
頸動脈狭窄症は、首にある頸動脈の内側に動脈硬化性プラークが蓄積し、血管が狭くなる病気です。
頸動脈は脳へ血液を送る重要な血管であり、狭窄が進行すると脳梗塞の原因となります。 主な危険因子には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などがあり、
頸動脈エコー、MRI、CT検査などで診断されます。
症候性と無症候性
頸動脈狭窄症は、症状の有無によって以下に分けられます。
- 症候性頸動脈狭窄症
脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)を起こしたことがある状態 - 無症候性頸動脈狭窄症
症状はないが、検査で狭窄が見つかった状態
この区別は、治療方針と脳梗塞予防効果を考えるうえで非常に重要です。
頸動脈狭窄の程度(高度狭窄の定義)
頸動脈狭窄の程度は、一般にNASCET法を用いて評価されます。
- 軽度狭窄:50%未満
- 中等度狭窄:50〜69%
- 高度狭窄:70〜99%
※完全閉塞(100%)では、原則としてCEAの適応にはなりません。
本ページでいう「高度狭窄」とは、
NASCET法で70%以上の狭窄を指します。
治療を検討する考え方(ガイドラインに基づいて)
症候性頸動脈狭窄症
日本の脳卒中治療ガイドラインでは、
狭窄率(特に70%以上の高度狭窄)と症例背景を踏まえ、
CEAを中心とした血行再建を検討する
とされています。
特に高度狭窄例では、
CEAによる脳梗塞予防効果が明確に示されています。
無症候性頸動脈狭窄症
無症候性の場合は、
まず最良の内科的治療(抗血小板療法、血圧・脂質管理、生活習慣改善)が基本です。
そのうえで、
- NASCET法で70%以上の高度狭窄を有し
- 画像所見などから脳梗塞発症リスクが高いと判断され
- 熟練した施設で周術期合併症を低率に抑えられる場合
に限り、CEAを検討するという位置づけになります。
頸動脈内膜剥離術(CEA)とは
CEAは、頸部を切開し、動脈内に付着したプラークを直接取り除く手術です。
血管の内腔を根本的に改善でき、
長期的に安定した脳梗塞予防効果が期待されます。
CEAによる脳梗塞予防効果(%での説明)
大規模臨床試験(NASCET、ACAS、ACST など)では、以下の効果が示されています。
症候性頸動脈狭窄症(高度狭窄:70〜99%)
- 内科治療のみの場合:
約 25〜26% が2年以内に脳梗塞を発症 - CEAを行った場合:
約 8〜9% に低下
絶対リスク減少:約17% (2年間)
無症候性頸動脈狭窄症(高度狭窄:70%以上)
- 内科治療のみの場合:
5年以内の脳梗塞発症率 約 10〜11% - CEAを行った場合:
約 4〜5%
絶対リスク減少:約5〜6%(5年間)
CEAの合併症リスクについて
CEAは有効な治療法ですが、一定の周術期リスクを伴う手術です。
ガイドラインおよび大規模試験では、
熟練した施設で行われた場合の周術期合併症率は、
- 周術期脳卒中または死亡
症候性:6%以内
無症候性:3%以内
が望ましい水準とされています。
まとめ
頸動脈内膜剥離術(CEA)は、NASCET法で70%以上の高度狭窄を有する適切な症例において、脳梗塞の発症リスクを10〜20%以上低下させることが証明されている治療法です。
一方で手術には一定の合併症リスクがあるため、利益とリスクを慎重に評価したうえで治療方針を決定することが重要です。
頸動脈狭窄症は、
「狭窄率が高いから必ず手術」
「無症状だから何もしない」
といった単純な病気ではありません。
症候性か無症候性か、狭窄の程度、プラークの性状、年齢、全身状態、そして将来どの程度の脳梗塞予防効果が期待できるか――これらを総合的に評価することが重要です。
頸動脈内膜剥離術(CEA)は、適切に症例を選択すれば、脳梗塞の発症リスクを10〜20%以上低下させることが証明されている治療法である一方、一定の周術期合併症リスクを伴う手術でもあります。
そのため、「手術をするか・しないか」ではなく、「その方にとって、今どの治療が最も利益が大きいか」を考えることが何より大切です。 専門的な評価をもとに、治療のメリット・デメリットを丁寧に説明し、患者さんやご家族と十分に話し合いながら、納得のいく治療方針を一緒に考えていくことが重要だと考えています。不安や疑問がある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
もやもや病
(Moyamoya disease)
もやもや病とは
もやもや病は、脳の主要な動脈(内頸動脈終末部など)が徐々に狭くなり、閉塞していく進行性の脳血管疾患です。
血流が低下することで、脳は不足した血流を補おうとし、**細く脆い側副血管(もやもや血管)**が形成されます。
この側副血管が画像上「もやもや」と見えることから、この名前が付けられました。
どのような症状が出る病気か
もやもや病では、年齢によって症状の現れ方が異なります。
- 小児例
- 一過性の脱力やしびれ
- ことばが出にくい
- 知能・学習面への影響
- 成人例
- 脳梗塞
- 脳出血
- 頭痛、けいれん
症状が軽くても、脳梗塞や脳出血を繰り返すリスクがある病気であり、慎重な評価が必要です。
治療の基本的な考え方
現在の医学では、狭くなった血管そのものを元に戻す治療はありません。
そのため、治療の目的は
「脳への血流を増やし、脳梗塞や脳出血を防ぐこと」
になります。
日本のもやもや病診療ガイドラインでは、
- 虚血症状(脳梗塞・TIAなど)がある場合
- 脳血流検査で血流低下が確認される場合
には、外科的血行再建術(バイパス手術)を検討することが推奨されています。
外科的治療(血行再建術)とは
もやもや病の外科治療は、
新しい血流の通り道(バイパス)を作る手術です。
主な方法には、
- 直接バイパス術
(浅側頭動脈―中大脳動脈バイパス:STA–MCA bypass) - 間接バイパス術
- 直接+間接を組み合わせた複合バイパス術
があります。
これらにより、
脳表への血流が増加し、虚血発作や脳梗塞の再発リスクを低下させる効果が示されています。
手術の有効性について
多数の臨床研究により、
- 虚血型もやもや病では、バイパス手術により脳梗塞再発リスクが有意に低下
- 成人出血型もやもや病では、再出血リスクを低下させる効果
が示されています。
特に成人出血型では、
外科的血行再建術が再出血予防に有効であることが、日本の大規模研究により報告されています。
手術に伴うリスクについて
もやもや病の手術は有効である一方、
一定の周術期リスクを伴います。
- 一過性の神経症状
- 脳梗塞
- 脳出血
- 過灌流症候群
などが起こる可能性があり、
手術適応の判断と周術期管理が極めて重要です。
治療方針決定で大切なこと
もやもや病では、
- 症状の有無
- 年齢(小児か成人か)
- 虚血型か出血型か
- 脳血流検査の結果
- 生活背景や将来の見通し
を総合的に評価する必要があります。
「診断されたら必ず手術」「症状が軽いから何もしない」
という病気ではありません。
最後に
もやもや病は、一人ひとりで病態やリスクが異なる疾患です。
治療の正解は一つではありません。
専門的な評価をもとに、治療のメリット・デメリットを丁寧に説明し、
患者さんやご家族と十分に話し合いながら、その方にとって最適な治療方針を一緒に考えていくことが重要だと考えています。
不安や疑問がある場合は、どうぞご相談ください。
髄膜腫(ずいまくしゅ)
髄膜腫とは
髄膜腫は、脳を包む膜(髄膜)から発生する脳腫瘍です。
脳腫瘍の中では比較的頻度が高く、**多くは良性腫瘍(WHOグレードⅠ)**に分類されます。
多くの場合、
- 脳ドック
- MRI・CT検査
などで偶然発見され、自覚症状がないことも少なくありません。
一方で、腫瘍が大きくなると脳を圧迫し、
- 頭痛
- けいれん
- 手足の麻痺
- 視力障害
などの症状が出現することがあります。
髄膜腫は基本的に進行が緩やかですが、部位や大きさ、性質によっては慎重な対応が必要な腫瘍です。
治療が必要かどうかを判断する視点
髄膜腫に対して、すべての症例で直ちに治療が必要というわけではありません。
日本の脳腫瘍診療ガイドラインでは、以下の点を総合的に評価し、治療方針を決定することが推奨されています。
- 腫瘍の大きさ
- 増大傾向の有無
- 発生部位(脳幹・視神経・静脈洞との関係など)
- 症状の有無
- 年齢・全身状態
- 画像上の性状(浮腫の有無など)
無症状で増大がみられない場合には、
定期的なMRIによる経過観察が選択されることも多くあります。
一方で、
- 明らかな症状がある
- 増大傾向がある
- 将来的に神経障害を生じる可能性が高い
と判断される場合には、治療を検討します。
治療法の選択について
髄膜腫の治療には、主に次の選択肢があります。
- 手術による腫瘍摘出
- 放射線治療(定位放射線治療を含む)
- 経過観察
どの治療法が適しているかは、
「腫瘍をどこまで安全に取り除けるか」
「治療後の生活の質(QOL)」
を含めて判断する必要があります。
手術治療に対する考え方
個人的な考えとしては、
- 安全に全摘出が可能で、根治が期待できる症例
- → 手術による摘出を第一選択とする
- 視神経や脳幹、重要な血管・静脈洞に強く接している症例
- → 無理な全摘出は行わず、部分摘出+放射線治療を検討
といったように、
**「どこまで取るか」よりも「どこまで安全に治せるか」**を重視しています。 髄膜腫は良性であるがゆえに、後遺症を残さず、長期的に安定した生活を送れることが何より重要です。
低侵襲手術・放射線治療に対する考え方
近年、
- 低侵襲手術(鍵穴手術、内視鏡手術)
- 定位放射線治療
といった治療法も進歩しています。
これらは、
- 身体への負担が少ない
- 回復が比較的早い
といった利点があります。私も鍵穴手術、内視鏡手術を多く行ってきました。
しかし私は、
「低侵襲であること」そのものを最優先にはしていません。
大切なのは、
その治療が患者さんの将来にとって本当に最善かどうかです。
たとえば、
- 放射線治療は有効な選択肢である一方、
腫瘍が完全に消失するわけではなく、長期的な変化を注意深く追う必要があります。 - 手術では、しっかり摘出することで再発リスクを低減できる場合もあります。
私が重視しているのは、次の3点です。
- 神経障害などの合併症を最小限に抑えること
- 腫瘍を可能な限り制御・根治すること
- 治療後の生活の質を保つこと
そのため、治療方法については、
メリット・デメリットを丁寧にご説明し、
患者さんご自身が納得して選択できることを大切にしています。
最後に
髄膜腫は、
**「治療が必要な場合」と「慎重に経過をみるべき場合」**が分かれる腫瘍です。 治療の正解は一つではありません。
専門的な評価をもとに、患者さん一人ひとりの状況に応じて、最適な治療方針を一緒に考えていくことが重要だと考えています。不安や疑問がある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)
下垂体腺腫とは
下垂体腺腫は、脳の中央部に位置する下垂体から発生する良性の脳腫瘍です。
下垂体は、成長や代謝、生殖など、全身のホルモン分泌を調節する重要な役割を担っています。
下垂体腺腫は、
- ホルモンを過剰に分泌するタイプ
- ホルモン分泌を伴わないタイプ
に分けられます。
症状としては、
- 視神経の圧迫による視力・視野障害
- ホルモン異常による症状
(先端巨大症、クッシング病、月経異常、性機能障害など) - 頭痛
などがみられますが、症状が乏しく、MRI検査で偶然発見されることもあります。
治療が必要かどうかの判断
下垂体腺腫では、腫瘍の大きさだけで治療の要否を決めることはありません。
以下の点を総合的に評価します。
- 視機能への影響の有無
- ホルモン過剰分泌の有無
- 腫瘍の大きさ・進展範囲
- 腫瘍の増大傾向
脳腫瘍診療ガイドラインでは、
視機能障害を認める場合や
ホルモン異常を伴う場合には、治療を検討することが推奨されています。
一方で、
小さく、症状やホルモン異常のない腫瘍では、
定期的なMRI検査による経過観察が選択されることもあります。
治療法の選択について
下垂体腺腫の治療には、
- 手術
- 薬物療法
- 放射線治療
- 経過観察
といった選択肢があります。
現在、治療の中心となるのは、
**内視鏡下経鼻手術(鼻から行う手術)**です。
手術治療に対する考え方
- 視機能障害やホルモン異常を伴い、改善が期待できる症例
- → 内視鏡下経鼻手術を第一選択
- 腫瘍が重要な血管や神経に強く接している症例
- → 無理な全摘出にこだわらず、安全性を最優先
- 腫瘍が非常に大きく、脳の上方や側方へ広く進展している症例
- → **開頭手術と経鼻内視鏡手術を同時に行う「開頭・経鼻同時手術」**を検討
といった方針を大切にしています。
下垂体腺腫の多くは経鼻内視鏡手術で対応可能ですが、
巨大腫瘍では一つのアプローチに固執せず、複数の手術手技を組み合わせることで、安全性と治療効果を高めることが重要です。
下垂体腺腫は良性腫瘍であるため、「どこまで取るか」よりも、「何を守るか」
すなわち、視機能や神経機能の温存を最優先に考えます。
低侵襲手術に対する考え方
内視鏡下経鼻手術は、
開頭を行わずに腫瘍へ到達できる、身体への負担が比較的少ない手術です。
回復が早く、社会復帰がしやすい点も大きな利点です。
一方で、
低侵襲であること自体を目的とするべきではありません。
腫瘍の大きさや広がりによっては、より確実で安全な治療のために、開頭手術や放射線治療を組み合わせる方が望ましい場合もあります。
治療法の選択では、
- 視機能の改善
- 根治可能性
- 長期的な再発リスクの低減
を総合的に考慮することが重要だと考えています。
治療選択で大切にしていること
私は、下垂体腺腫の治療において、次の3点を重視しています。
- 視機能・神経機能をできるだけ守ること
- 症状の改善と長期的な安定を得ること
- 患者さんの将来の生活の質を損なわないこと
診察では、それぞれの治療法のメリット・デメリットを丁寧にご説明し、
患者さんご自身が納得して治療を選択できることを何より大切にしています。
最後に
下垂体腺腫は、
適切な治療により、視機能やホルモン異常の改善が期待できる腫瘍です。
治療が必要な場合も、慎重な経過観察が適している場合もあります。
一人ひとり状況は異なるため、正解は一つではありません。専門的な評価をもとに、
患者さんと十分に話し合いながら、最適な治療方針を一緒に考えていきたいと考えています。不安や疑問がある場合は、どうぞご相談ください。
神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)
※ 主に聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)
神経鞘腫とは
神経鞘腫は、神経を包む膜(神経鞘)から発生する良性の脳腫瘍です。
中でも最も多いのが、聴神経(前庭神経)から発生する聴神経腫瘍です。
主な症状として、
- 片側の難聴
- 耳鳴り
- めまい・ふらつき
などがみられますが、初期には自覚症状が乏しく、MRI検査で偶然発見されることも少なくありません。 腫瘍が大きくなると、顔面神経や脳幹を圧迫し、顔面神経麻痺や歩行障害を生じることがあります。
治療が必要かどうかを判断する視点
神経鞘腫の治療方針は、
腫瘍の大きさ・増大速度・症状の程度を総合的に評価して決定します。
脳腫瘍診療ガイドラインでは、
- 腫瘍が小さく
- 症状が軽度、または無症状
- 明らかな増大が認められない
場合には、定期的なMRIによる経過観察が選択肢となります。
一方で、
- 腫瘍の増大が認められる場合
- 聴力低下や顔面神経症状が進行している場合
- 脳幹を圧迫している場合
には、治療を検討することが推奨されています。
治療法の選択について
神経鞘腫の治療には、主に次の3つがあります。
- 手術
- 放射線治療
- 経過観察
どの治療法にも利点と限界があり、
**「腫瘍の制御」と「神経機能の温存」**のバランスが重要です。
手術治療に対する考え方
個人的な考えとしては、
- 若年で、腫瘍が大きく、将来的な増大が見込まれる症例
- → 手術による腫瘍制御を検討
- 顔面神経や聴力の温存が特に重要な症例
- → 無理に全摘出にこだわらず、部分摘出+追加治療も選択肢
としています。 神経鞘腫は良性腫瘍であり、
**「どこまで取るか」よりも、「どの機能を守るか」**が治療の質を左右します。
放射線治療に対する考え方
放射線治療は、
- 身体への負担が比較的少ない
- 短期間で治療が完結する
といった利点があります。
一方で、
腫瘍が完全に消失する治療ではなく、長期的な腫瘍制御と経過観察が必要となります。年齢、腫瘍の性状、将来の生活を踏まえ、手術と放射線治療のどちらが適しているかを慎重に判断します。
治療選択において大切にしていること
私は、治療法を選ぶ際に次の3点を重視しています。
- 顔面神経や聴力など、神経機能をできるだけ守ること
- 腫瘍を長期的に安定させること
- 将来の生活の質を損なわないこと
治療を急ぐべきか、様子を見るべきか、
患者さんと十分に話し合いながら決定します。
最後に
神経鞘腫は、
「早めに治療する」「慎重に経過を見る」
といった柔軟な判断が求められる腫瘍です。
一人ひとり状況は異なります。
専門的な評価をもとに、患者さんが納得できる治療方針を
一緒に考えていくことを大切にしています。
不安や疑問がある場合は、どうぞご相談ください。