脳神経外科医亦野文宏(またのふみひろ)

第7回 脳を知る ― 疾患・治療・研究の最前線 ―

髄膜腫が見つかったら手術が必要?

― 何cmから?経過観察できる?治療判断をわかりやすく解説 ―

脳ドックや頭痛の検査などでMRIを撮影し、

「髄膜腫があります」

と言われ、驚かれる方がいます。

「脳腫瘍ということですか?」

「何cmになったら手術が必要ですか?」

「経過観察のままで大丈夫でしょうか?」

「このまま大きくなるのでしょうか?」

外来でも、このような質問をよくいただきます。

まず、一番お伝えしたいことがあります。

髄膜腫が見つかったからといって、すべての方にすぐ手術が必要なわけではありません。

実際、症状がなく偶然見つかった髄膜腫では、MRIを定期的に撮影しながら経過観察することも少なくありません。

一方で、

「良性と言われたから、そのまま放っておいて大丈夫」

とも限りません。

髄膜腫の治療方針を考える際には、

① 症状があるか
② 大きくなっているか
③ どこにあるか
④ 年齢や全身状態
⑤ 周囲の脳・神経・血管との関係

を総合的にみることが大切です。

今回は、髄膜腫が見つかったときに、手術する場合と経過観察できる場合をどのように考えるのかについてお話しします。


そもそも髄膜腫とは?

髄膜腫は、脳そのものから発生する腫瘍ではありません。

脳の表面を覆っている「髄膜」と呼ばれる膜から発生する腫瘍です。

成人にみられる原発性頭蓋内腫瘍の中でも頻度の高い腫瘍で、多くはゆっくりと成長します。

髄膜腫の多くはWHO grade 1に分類される比較的良性の腫瘍ですが、すべての髄膜腫が同じ性質を持っているわけではありません。

また、MRIだけで病理学的な悪性度を完全に判断することはできません。

とはいえ、小さな髄膜腫が偶然見つかり、症状もなく、長期間ほとんど変化しない方も少なくありません。

つまり、

「髄膜腫=すぐ手術が必要な脳腫瘍」ではありません。


なぜ症状がないのに髄膜腫が見つかるのでしょうか?

現在はMRIを撮影する機会が増えたため、症状とは関係なく髄膜腫が偶然見つかることが増えています。

例えば、

  • 脳ドック
  • 頭痛やめまいの検査
  • 別の病気のために行ったMRI

などです。

このように、髄膜腫そのものによる症状がない状態で偶然見つかったものを、偶発性・無症候性髄膜腫と呼びます。

現在の国際的なガイドラインでも、無症状で新たに診断された、あるいはゆっくり増大する髄膜腫では、まず経過観察を選択することが推奨される場合があります。

したがって、MRIで髄膜腫が見つかったからといって、慌てて手術を決める必要はありません。


髄膜腫は何cmになったら手術が必要ですか?

非常によく聞かれる質問です。

結論からいうと、

「○cmを超えたら必ず手術」という一律の基準はありません。

これはとても重要です。

同じ2cmの髄膜腫でも、脳の表面にあり重要な神経や血管から離れている場合と、

  • 視神経
  • 脳幹
  • 脳神経
  • 内頸動脈
  • 椎骨脳底動脈
  • 太い静脈や静脈洞

のすぐ近くにある場合では、意味が大きく異なります。

例えば、視神経のすぐ近くにある腫瘍では、比較的小さくても視力や視野に影響することがあります。

反対に、ある程度の大きさがあっても、症状がなく、重要な構造への影響が少なく、長期間ほとんど増大していない場合には経過観察できることもあります。

つまり髄膜腫では、

「何cmか」だけではなく、「どこにあるか」が非常に重要

なのです。


髄膜腫は放っておくと大きくなるのでしょうか?

これも多くの方が心配される点です。

髄膜腫の中には大きくなるものがあります。

しかし、

すべての髄膜腫が同じ速度で大きくなり続けるわけではありません。

偶然見つかった髄膜腫を5年間追跡した前向き研究では、画像上大きくなる腫瘍は認められたものの、成長速度は一定ではなく、60%以上で増大が次第に落ち着くような成長パターンがみられました。

また、この研究では経過観察中に腫瘍による症状を生じた患者はいませんでした。

一方、別のシステマティックレビューでは、経過観察されている偶発性髄膜腫の中にも、増大や症状の出現によって後から治療が必要になる症例があることが示されています。

つまり、

「大きくなるか、大きくならないか」を1回のMRIだけで決めることは難しい

のです。

だからこそ重要なのが、

過去のMRIとの比較

です。

半年、1年、数年という時間軸で画像を比べることで、その髄膜腫がどのような性質を持っているのかが少しずつ分かってきます。


経過観察できるのはどのような髄膜腫でしょうか?

一般的には、

  • 症状がない
  • 比較的小さい
  • 過去のMRIと比べて増大していない
  • 周囲の脳に強い圧迫や浮腫がない
  • 視神経や脳幹など重要な構造への影響が少ない

といった場合には、MRIによる経過観察を選択できる可能性があります。

ここで大切なのは、

経過観察=何もしない

ではないということです。

MRIを定期的に撮影し、

「変化がないことを確認しながら安全に見守る」

ことも、立派な治療方針の一つです。


年齢も治療方針を考えるうえで大切です

同じ大きさ、同じ場所の髄膜腫でも、40歳の方と80歳の方で治療方針が同じとは限りません。

若い方では、この先何十年という時間の中で腫瘍が増大する可能性を考える必要があります。

一方、高齢の方で、

  • 症状がない
  • 腫瘍がほとんど増大していない
  • 全身状態や手術リスクも考慮する必要がある

という場合には、手術による利益とリスクを比較しながら経過観察を選択することもあります。

ただし、

「高齢だから手術をしない」

と年齢だけで決めるわけでもありません。

重要なのは、

腫瘍だけではなく、その患者さん自身を見ること

です。

年齢、全身状態、日常生活の自立度、症状、腫瘍の位置や増大速度などを合わせて判断します。


どのような症状があれば治療を考えるのでしょうか?

髄膜腫によって症状が生じている場合は、治療を考える重要な理由になります。

症状は腫瘍の場所によって異なり、

  • 手足の麻痺
  • けいれん
  • 視力・視野障害
  • 物が二重に見える
  • 顔のしびれ
  • 聴力低下
  • 歩行障害
  • 認知機能の変化
  • 性格の変化

などがみられることがあります。

特に、

以前にはなかった神経症状が出てきた場合

には、腫瘍との関係を詳しく評価する必要があります。


MRIで大きくなっていたら手術が必要ですか?

増大は治療を検討する重要な材料です。

ただし、

「少し大きくなった=必ずすぐ手術」

でもありません。

どのくらいの期間で、どの程度大きくなったのか。

周囲の神経や血管に近づいているのか。

症状が出始めているのか。

今なら比較的安全に治療できるが、さらに増大すると治療が難しくなる場所なのか。

こうした点を総合して判断します。

特に頭蓋底髄膜腫では、

今は無症状でも、さらに大きくなると重要な神経や血管を巻き込み、将来の治療が難しくなる

ことがあります。

そのため、「まだ症状がないから大丈夫」だけではなく、将来まで含めた治療戦略が重要になります。


髄膜腫を手術せずに経過観察するとどうなるのでしょうか?

経過観察を選んだ場合、

  • 長期間ほとんど変化しない
  • 少しずつ大きくなる
  • 一時期大きくなったあと増大が落ち着く
  • 増大して症状が出て治療が必要になる

など、さまざまな経過があります。

そのため、

「手術をしない」と決めて終わりではありません。

MRIを比較しながら、

今まで通り経過をみてよいのか、治療へ切り替えるべきなのか

をその都度考えます。

経過観察と手術は、完全に別々の選択肢ではありません。

安全に見守り、必要になったタイミングで治療する

という考え方も重要です。


髄膜腫の治療は手術だけではありません

髄膜腫の治療には、大きく分けて、

  • 経過観察
  • 手術
  • 定位放射線治療・放射線治療

があります。

どれか一つが常に正解というわけではありません。

小さく無症状であれば経過観察。

症状があり、安全に摘出可能であれば手術。

場所、大きさ、年齢などによっては定位放射線治療が適している場合もあります。

さらに、手術と放射線治療を組み合わせる場合もあります。

大切なのは、

「髄膜腫だからこの治療」ではなく、その患者さんとその腫瘍に適した治療を選ぶこと

です。


「全部取ること」が必ずしも最良の手術ではありません

髄膜腫の手術では、可能な範囲で腫瘍を摘出することが重要です。

しかし私は、

「全摘出すること」そのものを手術のゴールにはしていません。

特に頭蓋底髄膜腫では、腫瘍が、

  • 視神経
  • 眼球を動かす神経
  • 顔面神経
  • 脳幹
  • 内頸動脈などの重要な血管

に強く癒着していることがあります。

そのような場合に、無理に腫瘍をすべて剥がそうとすると、

  • 視力障害
  • 眼球運動障害
  • 顔面神経麻痺
  • 嚥下障害
  • 脳梗塞

などの重大な合併症につながる可能性があります。

良性腫瘍の治療によって、患者さんの生活の質を大きく損なってしまっては意味がありません。

そのため、

安全に摘出できる部分は十分に摘出し、重要な神経や血管に強く癒着した部分はあえて残し、必要に応じて放射線治療を組み合わせる

という治療戦略が適切なこともあります。

現在の国際ガイドラインでも、WHO grade 1髄膜腫では、意図的な部分摘出と放射線治療を組み合わせる治療が選択肢の一つとされています。

私が髄膜腫の手術で大切にしているのは、

「どこまで取れるか」ではなく、「どこまで安全に治せるか」

という考え方です。


頭蓋底髄膜腫では、なぜ治療が難しくなるのでしょうか?

髄膜腫は脳のさまざまな場所に発生します。

その中でも、

  • 蝶形骨縁
  • 鞍結節
  • 海綿静脈洞
  • 錐体骨
  • 斜台
  • 大後頭孔

など、頭蓋骨の深い部分に発生する髄膜腫を頭蓋底髄膜腫と呼びます。

この領域には、

視神経、脳神経、内頸動脈、椎骨脳底動脈、脳幹

など、非常に重要な構造が集中しています。

したがって頭蓋底髄膜腫では、

「取る・取らない」

だけではなく、

どの方向から腫瘍へ到達するか
どこまで摘出するか
どの神経を守るか
血管をどう温存するか
放射線治療を組み合わせるか

まで含めた治療戦略が重要になります。


髄膜腫と言われても、慌てて結論を出す必要はありません

MRIで突然、

「脳腫瘍があります」

と言われれば、不安になるのは当然です。

しかし、髄膜腫には、

今治療した方がよいもの

もあれば、

慎重に経過をみた方がよいもの

もあります。

重要なのは、

「髄膜腫があるかどうか」だけではありません。

症状はあるのか。
大きくなっているのか。
どこにあるのか。
何歳なのか。
重要な神経や血管に影響しているのか。
今治療する場合と、経過を見る場合のどちらが将来にとって安全なのか。

これらを一つずつ考えることが大切です。


まとめ

髄膜腫が見つかっても、

「脳腫瘍だからすぐ手術」

ではありません。

一方で、

「良性だから放っておいて大丈夫」

とも限りません。

治療を考えるうえで重要なのは、

① 症状
② 増大しているか
③ 発生した場所
④ 年齢・全身状態
⑤ 神経や血管との関係

です。

そして手術をする場合でも、

「全部取ること」だけがゴールではありません。

神経機能を守りながら、長期的に腫瘍をコントロールすることが重要です。

髄膜腫と診断され、

「本当に手術が必要なのだろうか」
「何cmまで経過観察できるのだろう」
「このまま大きくなったらどうなるのだろう」

と悩まれている場合には、髄膜腫や頭蓋底腫瘍を専門とする脳神経外科医に、現在のMRIだけでなく、可能であれば過去のMRIも含めて評価してもらうことをお勧めします。

患者さん一人ひとりにとって、

治療することと、治療しないことのどちらがより安全なのか。

その両方を考えることが、髄膜腫治療ではとても大切だと考えています。


参考文献

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    PMID: 31832214.

次回予告

第8回

聴神経腫瘍が見つかったら?
― 手術・放射線治療・経過観察をどう選ぶ? ―

聴神経腫瘍も、MRIで偶然見つかることのある良性腫瘍です。

しかし、

「手術した方がよいのか」

「ガンマナイフなどの放射線治療がよいのか」

「聴力は残せるのか」

「顔面神経麻痺は大丈夫なのか」

と悩まれる方は少なくありません。

次回は、腫瘍の大きさ、症状、年齢、聴力を踏まえ、経過観察・手術・放射線治療をどう選択するのかについて解説します。


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