MRIで見える“白い影”―脳白質病変とは何でしょうか?
脳ドックやMRIの結果で、
「白質病変があります」
と言われたことはないでしょうか。
「脳に白いものがあると言われました」
「これは脳梗塞なのでしょうか?」
「将来、認知症になるのでしょうか?」
外来でも、このような質問をいただくことがあります。
白質病変は、特に中高年の方のMRIでは決して珍しい所見ではありません。
一方で、その意味について正しく理解することは、これからの脳の健康を考えるうえでとても大切です。
そもそも「白質」とは?
脳は、大きく分けると「灰白質」と「白質」からできています。
灰白質には神経細胞が多く存在し、白質には、脳のさまざまな場所をつなぐ神経線維が走っています。
いわば白質は、
脳の各部位をつなぐ「情報伝達の道路」
のような役割を果たしています。
この白質の一部がMRIで白く見える状態を、一般に**白質病変(white matter hyperintensity:WMH)**と呼びます。
MRIでは特にFLAIR画像やT2強調画像で白く描出されます。
白質病変は「脳梗塞」なのでしょうか?
必ずしも、
白質病変=脳梗塞
というわけではありません。
白質病変にはさまざまな原因がありますが、中高年の脳ドックなどでみられる白質病変の多くは、脳の細い血管の変化である
脳小血管病(cerebral small vessel disease)
との関連が考えられています。
脳小血管病では、脳の奥深くにある非常に細い血管に長年の変化が生じます。
その結果としてMRIでは、
- 白質病変
- ラクナ
- 微小出血
- 血管周囲腔の拡大
など、さまざまな所見がみられることがあります。
白質病変は、その代表的な所見の一つです。
年齢とともに増える変化でもあります
白質病変は加齢と強く関連しています。
そのため、ある程度の年齢になれば、MRIで少量の白質病変が見つかること自体は珍しいことではありません。
特に重要な危険因子の一つが、
高血圧
です。
長期間にわたって血圧が高い状態が続くと、脳の細い血管に負担がかかり、脳小血管病が進行しやすくなると考えられています。
したがって、
「白質病変がある=すぐに病気になる」
ということではありません。
大切なのは、
どの程度あるのか、年齢に比べて多いのか、ほかの脳小血管病の所見を伴っているのか
という点です。
白質病変があると脳卒中になりやすい?
白質病変は、単なる「MRI上の加齢変化」として無視してよいものでもありません。
これまでの多くの研究から、白質病変が多い人では、将来の脳卒中や認知機能低下などのリスクが高くなることが示されています。
大規模なメタ解析では、白質病変を有する人では、その後の脳卒中や認知症の発症リスクが高いことが報告されています。
また、白質病変は脳小血管病の重要な画像マーカーとして位置づけられており、程度が強いほど将来の認知機能低下との関連も報告されています。
ただし、ここで重要なのは、
白質病変がある人が必ず脳卒中や認知症になるわけではない
ということです。
あくまで将来のリスクを考えるための一つの指標です。
認知症との関係は?
「白質病変があると認知症になりますか?」
という質問もよくあります。
白質は脳のさまざまな領域をつないでいるため、その障害が増えていくと、情報処理の速度や注意力、遂行機能などに影響する可能性があります。
実際、36の前向き研究、約1万9千人を解析したメタ解析でも、白質病変はその後の認知機能障害や認知症リスクと関連していました。
しかしここでも、
白質病変がある=認知症
ではありません。
MRIだけで認知症を診断することはできません。
白質病変の量や分布だけでなく、年齢、症状、生活状況、その他の画像所見などを総合的に評価する必要があります。
白質病変があったら、どうすればよいのでしょうか?
白質病変そのものを薬や手術で「消す」治療があるわけではありません。
だからこそ重要なのが、
これ以上、脳の細い血管を傷めないこと
です。
特に意識したいのが、
- 血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙
- 運動習慣
- 体重管理
など、脳血管に関係する生活習慣や危険因子です。
なかでも血圧管理は重要です。
高血圧患者を対象としたSPRINT MINDのMRI研究では、より積極的に血圧を管理した群で、約4年間の白質病変の増加が小さかったことが報告されています。
もちろん、血圧は低ければ低いほどよいという意味ではなく、年齢や全身状態などに応じた適切な管理が必要です。
MRIの「白い影」は、脳からのサインかもしれません
白質病変が少し見つかったからといって、必要以上に心配することはありません。
一方で、
「年齢のせいだから放っておけばよい」
と考えるのも適切ではありません。
白質病変は、
これまで脳の細い血管にどの程度の負担がかかってきたかを映している一つの指標
と考えると分かりやすいかもしれません。
特に白質病変が多い場合には、血圧をはじめとする脳卒中の危険因子を一度見直す良い機会になります。
脳ドックは、病気を見つけるだけの検査ではありません。
MRIに現れた小さな変化をきっかけに、
これからの脳をどう守っていくかを考えること
にも意味があると私は考えています。
まとめ
白質病変は、中高年のMRIでは比較的よくみられる所見です。
多くは加齢や脳小血管病と関連しており、少量だからといって過度に心配する必要はありません。
一方、白質病変が多い場合には、将来の脳卒中や認知機能低下との関連が知られています。
大切なのはMRIの「白い影」だけを見るのではなく、
年齢、血圧、生活習慣、その他のMRI所見などを合わせて、自分の脳の状態を考えること
です。
白質病変を、怖がるための所見ではなく、
これからの脳の健康を考えるきっかけ
として捉えていただければと思います。
参考文献
- Wardlaw JM, et al. Neuroimaging standards for research into small vessel disease and its contribution to ageing and neurodegeneration. Lancet Neurol. 2013;12(8):822-838. PMID: 23867200
- Hu HY, et al. White matter hyperintensities and risks of cognitive impairment and dementia: a systematic review and meta-analysis of 36 prospective studies. Neurosci Biobehav Rev. 2021;120:16-27. PMID: 33188821
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