脳神経外科医亦野文宏(またのふみひろ)

第2回 脳を知る ― 疾患・治療・研究の最前線

未破裂脳動脈瘤は、本当に治療した方がよいのでしょうか?

「治療」と「経過観察」の考え方

第1回では、「脳ドックで脳動脈瘤が見つかっても、すぐに手術が必要とは限らない」ことをお話ししました。

では、実際にはどのような場合に治療を勧めるのでしょうか。

外来でも最も多くいただく質問の一つです。

結論からお伝えすると、

未破裂脳動脈瘤が見つかったからといって、すべての方が治療の対象になるわけではありません。

治療を行うかどうかは、将来の破裂リスクと治療によるメリット・デメリットを慎重に比較しながら、一人ひとりに合わせて判断します。


治療の目的は「今」ではなく「未来」を守ること

未破裂脳動脈瘤は、多くの場合、自覚症状がありません。

つまり、現在困っている症状を治すための治療ではありません。

治療の目的は、

将来起こるかもしれない「くも膜下出血」を予防すること

です。

一方で、どんな治療にも一定のリスクがあります。

そのため、

  • 将来破裂する可能性
  • 治療による合併症の可能性

この二つを比較し、「治療した方が利益が大きい」と判断される場合に治療を検討します。


私たちは何を見ているのでしょうか?

「5mmだから治療ですか?」

このような質問を受けることがあります。

しかし、実際には大きさだけで判断することはありません。

診察では、

  • 動脈瘤の大きさ
  • 形状(いびつさや突出の有無)
  • 発生した部位
  • 年齢
  • 高血圧
  • 喫煙歴
  • ご家族にくも膜下出血の既往があるか
  • 経過中に大きくなっていないか

など、多くの要素を総合的に評価しています。

同じ大きさの動脈瘤でも、治療を勧める場合もあれば、経過観察を勧める場合もあります。


「経過観察」も大切な治療方針です

「様子を見ましょう」と言われると、

「何もしなくて大丈夫なのだろうか」

と不安になる方も少なくありません。

しかし、経過観察とは「放置すること」ではありません。

定期的にMRIやMRAなどの画像検査を行い、動脈瘤の大きさや形に変化がないかを確認しながら、安全に経過を見守ることも重要な治療方針の一つです。

変化が認められた場合には、その時点で改めて治療について相談します。


私が大切にしていること

診療では、「手術をすること」そのものを目的にはしていません。

私が大切にしているのは、

患者さんにとって最も良い選択をすることです。

治療による利益が大きいと判断すれば、治療をお勧めします。

一方で、経過観察の方が安全であると判断した場合には、その理由を丁寧に説明し、安心して経過を見ていただけるよう心掛けています。

「手術をする勇気」と同じように、「手術をしない判断」も、専門医として大切な役割だと考えています。


おわりに

未破裂脳動脈瘤には、「治療した方がよいもの」と「慎重に経過を見た方がよいもの」があります。

その判断は、動脈瘤だけでなく、患者さん一人ひとりの年齢や全身状態、生活背景まで含めて総合的に行います。

大切なのは、「見つかったから治療する」「小さいから安心」と単純に考えることではありません。

専門医と十分に相談し、ご自身にとって最も納得できる選択をすることが重要です。


次回予告

3

「クリッピング術とカテーテル治療どちらを選ぶべき?」

未破裂脳動脈瘤の治療には、大きく分けて開頭クリッピング術と血管内治療があります。

それぞれの特徴やメリット・デメリット、どのように治療法を選択しているのかについて、分かりやすく解説します。