脳神経外科医亦野文宏(またのふみひろ)

第3回 脳を知る ― 疾患・治療・研究の最前線 ―

クリッピング術とカテーテル治療

どちらを選ぶべきでしょうか?

― 大切なのは「その人に合った治療」を選ぶこと ―

第1回では、「脳ドックで脳動脈瘤が見つかったらどうするか」、第2回では「治療と経過観察の考え方」についてお話ししました。

今回は、治療が必要と判断された場合に選択肢となる2つの治療法についてご紹介します。

外来でも、

「開頭手術とカテーテル治療、どちらが良いのでしょうか?」

という質問をよくいただきます。

結論から申し上げると、

どちらが優れているということではありません。

患者さん一人ひとりの病状や生活背景に合わせて、最適な治療法を選ぶことが何より大切です。


開頭クリッピング術とは

クリッピング術は、開頭して脳動脈瘤を直接確認し、金属製のクリップで動脈瘤の根元を閉じる治療です。

長年にわたり行われてきた治療法であり、現在でも世界中で広く行われています。

最大の特徴は、

一度しっかり治療できれば、再発が少なく、高い根治性が期待できること

です。

特に、

  • 若い患者さん
  • 根元(ネック)が広い動脈瘤
  • 分岐部にある動脈瘤

では、クリッピング術が適していることがあります。

一方で、開頭手術となるため、身体への負担はカテーテル治療よりやや大きくなります。


カテーテル治療とは

カテーテル治療(血管内治療)は、足や手首の動脈から細いカテーテルを挿入し、脳動脈瘤まで到達して治療を行います。

代表的な方法として、

  • コイル塞栓術
  • フローダイバーター

があります。

皮膚を大きく切開する必要がなく、身体への負担が比較的少ないことが特徴です。

高齢の患者さんや、開頭手術の負担が大きいと考えられる症例では、大きなメリットがあります。

一方で、動脈瘤の形によっては治療が難しい場合や、長期的に経過観察や追加治療が必要となることもあります。


私はどのように治療法を選んでいるのか

診療では、

「開頭手術だから」
「カテーテルだから」

という理由だけで治療法を決めることはありません。

私が大切にしているのは、

  • 安全性
  • 根治性
  • 身体への負担

この3つのバランスです。

例えば、

若い患者さんでは、将来の再治療の可能性まで考え、クリッピング術をお勧めすることがあります。

一方で、脳の深い場所や後頭蓋窩にある動脈瘤、高齢の患者さんでは、カテーテル治療がより適している場合もあります。

つまり、

治療法を選ぶのではなく、その患者さんに最も適した治療を選ぶ

という考え方を大切にしています。


「低侵襲」が必ずしも「最善」とは限りません

近年、「身体への負担が少ない治療」が注目されています。

もちろん、低侵襲治療には多くの利点があります。

しかし、

傷が小さいことと、長期的に最も良い治療であることは、必ずしも同じではありません。

患者さんの年齢や動脈瘤の特徴によっては、開頭クリッピング術の方が長期的な安心につながることもあります。

逆に、カテーテル治療によってより安全に治療できるケースもあります。

そのため、私は「低侵襲だから」という理由だけで治療法を選択することはありません。


私が大切にしていること

未破裂脳動脈瘤の治療は、

「どちらの治療法が優れているか」

を決めることではありません。

大切なのは、

患者さん一人ひとりにとって、最も安全で、最も納得できる治療を選ぶことです。

私は、画像だけではなく、

  • 年齢
  • 全身状態
  • 生活スタイル
  • 将来の見通し

まで含めて総合的に考え、患者さんと十分に相談しながら治療方針を決めています。


おわりに

開頭クリッピング術にも、カテーテル治療にも、それぞれ優れた点があります。

どちらか一方が万能というわけではありません。

だからこそ、経験豊富な施設で十分な説明を受け、ご自身に最も適した治療法を選ぶことが重要です。治療法を選ぶことが目的ではありません。

患者さんにとって最善の結果を目指すことが、私たちの最も大切な役割だと考えています。


次回予告

第4回

「高齢だから手術は危険?」

― 年齢だけでは決まらない、本当に大切なこと ―

「70歳を過ぎているから手術は難しいでしょうか?」

外来でよくいただく質問です。

実際には、年齢よりも重要な要素があります。

次回は、私たちが全国20施設共同研究で明らかにしたフレイルと**MRIで評価する脳の健康状態(白質病変)**について、分かりやすく解説します。